コミュニティケアに特集掲載されました
コミュニティケア様より執筆依頼を頂き、「訪問看護の機能強化」について高橋京子が想いを込めて執筆させて頂きました。
以下掲載内容です!
〈報告〉出向研修事業を通じての機能強化の取り組み
株式会社花みずきナースステーション
代表取締役 高橋 京子
株式会社花みずきナースステーションは、2009年7月に設立された、島根県松江市に拠点を置く訪問看護ステーションです。
経営理念には、訪問看護師の育成と地域貢献を掲げています。
現在の職員は、看護師12人、理学療法士・作業療法士各1人、主任介護支援専門員1人、事務兼介護支援専門員2人です。
■出向研修事業への参加経緯
2018年に島根県訪問看護支援事業の1つとして出向研修事業が実施となりました。この事業は、病院看護師が訪問看護ステーションに出向して、訪問看護業務に携わることにより、出向看護師のスキルアップと病院・訪問看護ステーション双方の機能強化を図るものです。
当ステーションはこれまで、急性期病院からの退院患者や難病・精神疾患の方など、医療依存度・重症度の高い患者を多く受け入れており、日々の業務において、病院側とより緊密に意思疎通を行う必要を感じていたところでした。
そこで、病院看護師が訪問看護を経験し、病院と在宅それぞれの立場が分かる人として、病院と訪問看護ステーションをつなぐ存在になってもらえれば、両者の連携協力をさらに深めることができると考え、出向研修事業への参加を決めました。
出向者は松江赤十字病院の看護師1名で、期間は2018年11月から2020年3月までの1年5か月間となりました。当初は3か月間の出向を予定していましたが、訪問看護師の役割や地域で生活しておられる方々の暮らしをより深く理解してもらうため、病院と当ステーションが調整を重ねた結果、長期の出向が実現しました。
■出向研修のねらい
出向看護師の具体的な育成方針としては、訪問看護を通じて多様なニーズを持つ在宅利用者について理解し、医療・介護のみならず多職種との有効な連携を図ることにより、病院における退院調整・在宅復帰・在宅療養を支援する力を身につけてもらうことと設定しました。
当ステーションでの出向受け入れにあたっては、事前に職員の間で、研修目的と育成方針を共有するよう努めました。当ステーションのスタッフも、日々の業務の中で看看連携の重要性を常に感じていたため、誰もが受け入れを歓迎してくれました。また、訪問先となる利用者には、事前に説明のうえ同意を得る必要がありましたが、担当看護師が個別にお願いをしたところ、皆さんからご快諾をいただくことができました。
■出向研修の内容
当ステーションでは、これまでも何度か実習生や研修生を受け入れてきましたが、短い実習・研修期間の中では、知ってほしいことを十分に伝えきれない憾みがありました。しかし、今回はかなり長期にわたる出向となったため、十分な時間を取って、じっくりと訪問看護の経験を積んでもらうことが可能になりました。
そこで、出向看護師には、前述の育成方針に基づいて、出向当初は、当ステーションの看護師が同行したうえで、慢性期の落ち着いた状態の利用者を中心に訪問してもらうところから始めました。その後、ある程度慣れてきたところで、徐々に単独訪問や新規利用者、精神疾患を抱えながら地域で生活される方の担当も増やしていき、利用者の状態を見ながら適切なケアを実施してもらうことができるようになりました。
これと並行して、事務所内でのカンファレンスや意見交換にも参加してもらい、病院看護師の観点から意見を述べてもらいました。さらに、最初の2週間は毎日、その後は1週間に1回、ふりかえりレポートを作成してもらったうえで面談を行うことにより、一つずつ学びを深めてもらいました。
■出向研修の成果
1年5か月間の研修期間を終えて、当ステーションの側から見た出向の成果としては、第一に、病院看護師の在宅療養支援能力を強化することができました。出向看護師が、重症度の高い利用者や終末期の利用者への単独訪問を重ねてもらったことで、患者を一人の生活者として捉えて看護展開する力が養われました。
第二に、病院との連携や入退院支援を強化することができました。出向看護師が、病院の退院前カンファレンスの出席等を通して、病院からの情報で不足しているものや、逆に訪問看護にはそれほど重要でないものなどを、訪問看護側の立場から病院にフィードバックしてくれたため、訪問看護ステーションと病院の関係をさらに充実させることができました。
これに付随して、1年5か月という長期の出向になったことで、病院の中では気づきにくい、四季の移り変わりに伴うさまざまなリスクについて、出向看護師に理解を深めてもらうことができました。たとえば、高齢者は体温調節機能が衰えている分、季節の変わり目には温度管理に注意が必要ですし、夏場は熱中症のリスクが高まり、冬場には暖房器具の過度な使用によって脱水症状を起こす恐れがあります。このような知見を、今後の入退院支援等に活かしてもらうことができるようになりました
第三に、当ステーションのマンパワーが拡充されました。出向看護師が当ステーションのスタッフの一員として活躍してくれたことで、当ステーションの看護師が休暇を取得したり長期研修を受講したりすることが容易になるなど、職場環境の改善につながりました。
第四に、当ステーションの看護師にとっても貴重な学びの機会となりました。出向看護師が、日々のカンファレンス等に積極的に参加して意見を述べてくれたことで、私たちも病院看護師の視点と経験から大いに学ぶことができました。また、主治医、介護支援専門員等の関係者からも高い評価をいただきました。
このように、病院や出向看護師のみならず、受け入れた当ステーションの側にとっても、非常に有意義な出向であったと思います。
■おわりに
今回の出向事業においては、病院看護師に長期にわたって訪問看護の経験を積んでもらい、病院と訪問看護ステーションの連携を強化することができました。現在、出向を終えた看護師は、病院に新設された患者総合支援センターで、外来・病棟・地域をつなぐ療養生活のサポート役として活躍しています。
個々の看護師によって働く場所は違っても、それぞれの場でしっかり力を発揮することが、地域包括ケアへの貢献につながります。今回の経験を糧として、当ステーションにおいても今一度、一人一人の看護師が看護の持つ力を見直していきたいと感じました。
今後も多くの訪問看護ステーションが積極的に出向看護師を受け入れ、地域の方々に貢献していくことが重要であると考えています。